熱中症をわかりやすく解説!かかりやすい人の特徴〜対処方法まで解説

暑い季節が近づくと、毎年ニュースでも話題になる「熱中症」です。体調を崩したり、時には命に関わる危険性もあるため、正しい知識を身につけることが大切です。熱中症は高温多湿な環境で体温調節機能が破綻し、さまざまな症状を引き起こす状態の総称です。しかし、適切な知識と対策があれば十分に予防できる疾患でもあります。
今回は、健康な体を維持したい皆様に向けて、熱中症の基本的な症状から予防対策、万が一発症した場合の対処法まで、薬剤師の視点からわかりやすく解説いたします。
熱中症の症状とは?基本的なメカニズムを理解しよう
熱中症とは、高温多湿な環境に身体が適応できないことで生じるさまざまな症状の総称です。体内の水分や塩分(ナトリウム)のバランスが崩れ、体温調節機能が正常に働かなくなった状態を指します。
初期症状として、めまいや立ちくらみ、顔のほてりが現れます。筋肉痛や筋肉のけいれん(こむら返り)、大量の発汗または全く汗をかかない状態も特徴的な症状です。体のだるさや吐き気、頭痛を伴うこともあります。重症になると、体温が著しく高くなり、皮膚が熱く乾燥した状態になります。さらに進行すると、呼びかけに反応しない意識障害や、まっすぐ歩けない運動障害が現れ、最悪の場合は生命に危険が及ぶこともあります。
これらの症状は段階的に進行するため、早期発見と適切な対応が重要になります。
熱中症になりやすい人・なりにくい人の特徴
熱中症の発症リスクには個人差があり、特定の条件を持つ人がなりやすいとされています。年齢による影響は大きく、高齢者と子どもは特に注意が必要です。高齢者は体温調節機能の衰えにより体内に熱がこもりやすく、また暑さやのどの渇きを感じにくい傾向があります。一方、子どもは体温調節機能が未熟なため、急激な環境変化に対応しきれない場合があります。
身体的な特徴として、肥満の方や必要以上に厚着をしている人もリスクが高くなります。また、普段から運動をしておらず暑さに慣れていない人、低栄養状態の人も注意が必要です。体調面では、二日酔いや寝不足などで体調が悪い人、下痢やインフルエンザなどで脱水状態にある人は熱中症を発症しやすくなります。心臓病、高血圧、精神疾患などの持病により体温調節機能が乱れることもあるため、基礎疾患をお持ちの方は特に注意深い対策が必要です。
さらに、職業的なリスクも考慮する必要があります。建築業や運送業など屋外での作業が多い職種の方、スポーツをする人は長時間の運動や激しい労働により体内に著しい熱が生じやすくなります。
熱中症を予防するための具体的対策
これからの季節は熱中症にならないような工夫が必要です。
1. 適切な水分・塩分補給の実践
予防の基本は、のどが渇く前からのこまめな水分補給です。1日の水分出納は約2.5リットルとされており、夏場は汗をかく分を考慮してより意識的な摂取が必要になります。ただし、水だけでは不十分で、汗で失われる塩分(ナトリウム)の補給も重要です。日本スポーツ協会では、0.1~0.2%の食塩と糖質を含んだ飲料を推奨しています。
手作りする場合は、1リットルの水にティースプーン半分の食塩(1~2g)と角砂糖を数個溶かした食塩水が効果的です。スポーツドリンクは手軽に塩分と糖分を同時補給できますが、糖分が多いため飲み過ぎには注意が必要です。アルコールやカフェインを含む飲料は利尿作用があるため、水分補給には適しません。
2. 暑熱順化による体づくり
急激な暑さに対応できる体を作るため、「暑熱順化」を進めることが重要です。これは徐々に体を暑さに慣らしていく過程で、効率的に汗をかき体温を調節できるようになることを指します。具体的には、1日30分程度のウォーキングを週4回、1~4週間程度続けることで暑さに強い体の獲得が期待できます。
また、日々の入浴で適度に汗をかくことも有効な方法です。急に暑くなった日や体が暑さに慣れていない時期は特に熱中症のリスクが高まるため、段階的な体づくりが予防の鍵となります。ただし、運動や入浴の際は必ず水分補給を行いながら、無理のない範囲で実施することが大切です。
3. 環境の工夫と適切な服装
室内環境では、室温28℃、湿度70%以下を目安にエアコンや扇風機を上手に活用します。遮光カーテンやすだれで直射日光を遮り、換気扇や扇風機で風通しを良くすることも効果的です。外出時は日傘や帽子を着用し、暑い時間帯(11時~15時)の外出はできるだけ避けましょう。
服装の工夫として、綿や麻など通気性の良い素材を選び、吸湿性や速乾性に優れた下着を着用します。襟元をゆるめたり、ゆったりとした服装で体の熱を放出しやすくしましょう。黒色系の衣類は熱を吸収しやすいため避け、薄着でも肌とインナー、インナーとアウターの間に空気の層を作ることで外からの熱気を遮断できます。
4. 体調管理と生活習慣の改善
熱中症予防には日頃からの体調管理が欠かせません。バランスの良い食事、適度な運動、十分な睡眠により体調を整えることが基本です。特に朝食抜きなどの状態での活動は避け、規則正しい生活を心がけましょう。栄養面では、豚肉や豆腐、味噌などの大豆製品に含まれるビタミンB1、赤ピーマンなどカラフルな夏野菜に含まれるビタミンC、梅干しや酢、レモンに含まれるクエン酸をバランスよく摂取することが推奨されます。
きゅうりやナスなど水分を多く含む食材も積極的に取り入れましょう。睡眠環境を整えるため、通気性や吸水性の良い寝具を使用し、エアコンや扇風機を適度に活用します。寝不足は体温調節機能を低下させるため、質の良い睡眠の確保は熱中症予防において重要な要素です。
5. 周囲への気配りと相互見守り
個人の予防努力に加えて、集団活動の場や地域社会でのお互いの配慮が重要です。高齢者や子どもなど熱中症になりやすい人々への声かけや見守りを行いましょう。離れて住む家族には電話で「今日は暑いですが、エアコンは使っていますか?体調はどうですか?」などの確認により助け合いましょう。
職場やスポーツ活動の現場では、参加者の体調や気温を考慮した活動計画を立て、休憩時間を十分に確保することが大切です。マスク着用が必要な環境では、適宜マスクを外したり、首元の開いた通気性の良い服装を選ぶなど、状況に応じた柔軟な対応が求められます。
熱中症になった場合の対処法
もし、熱中症にかかってしまった場合は、迅速な対応が必要になります。以下の対処と注意点を押さえておくと良いでしょう。
1. 迅速な環境改善と体位の調整
熱中症の症状が現れたら、まず涼しい環境への移動が最優先です。風通しの良い日陰や、エアコンの効いた室内に移動させます。傷病者を水平にして安静にし、本人が楽な体位を取らせましょう。衣服をゆるめて体からの熱の放散を助けます。女性の場合は、できるだけ同性の方が付き添うことが望ましいですが、重症など急を要する場合は救護作業を優先します。この段階で意識状態を確認し、意識がない場合や反応が鈍い場合は、すぐに救急車を要請してください。意識障害がある場合は熱射病の可能性が高く、生命に関わる緊急事態となるため、迷わず119番通報を行うことが重要です。
2. 効果的な冷却方法の実施
体温を下げることが熱中症改善の鍵となります。胸や腹部の体表面に水をかけたり、濡れたタオルで覆ったりして、うちわや扇風機で扇ぐことで気化熱により体を冷やします。より効果的な方法として、氷枕や保冷材があれば、頚部(首の付け根)、腋窩部(わきの下)、鼠径部(太ももの付け根)に当てて皮膚直下を流れる血液を冷やします。これらの部位には太い血管が流れており、効率よく全身を冷やすことができます。また、頬、手のひら、足の裏を冷やすことも有効です。冷却材がない場合は、霧吹きで体に水をかけたり、水道につないだホースで全身に水をかけ続ける方法も効果的です。重症者を救命できるかどうかは、いかに早く体温を下げることができるかにかかっているため、迅速な冷却開始が重要です。
3. 適切な水分・電解質補給
意識がはっきりしており、嘔吐がない場合は、水分と塩分の補給を行います。経口補水液やスポーツドリンク、または薄い食塩水(0.1~0.2%)を飲ませましょう。大量に汗をかいた状況で熱けいれんが疑われる場合は、スポーツドリンクに塩を足したものや生理食塩水(0.9%食塩水)など、やや濃い目の食塩水が効果的です。糖分を含む飲料が推奨される理由は、腸管での水分吸収を促進するためです。ブドウ糖は腸管内で塩分と同時にあると速やかに吸収され、それに引っ張られて水分も効率よく吸収されます。ただし、意識障害がある場合や嘔吐している場合は、誤って水分が気道に流れ込む危険性があるため、無理に飲ませることは避けてください。
4. 継続的な観察と医療機関への相談
応急処置後も、付き添って症状の変化を見守ることが重要です。症状が改善しない場合、様子がおかしい場合、全身のけいれんがある場合は、直ちに医療機関を受診するか救急車を要請します。軽症に見えても、一度回復したと思ってもまた症状が現れることがあるため、油断は禁物です。自己判断で炎天下での活動を再開することは大変危険です。
症状が改善したように見えても、体へのダメージが残っていることがあり、熱中症の回復を自己判断するのは困難です。不安な場合は、症状が軽くても一度医療機関を受診することをお勧めします。救急安心センター「#7119」では、救急車を呼ぶべきか迷った際の相談も受け付けているため、判断に困った場合は積極的に活用しましょう。
5. 回復後の注意点と再発防止
熱中症から回復した翌日は、ふらつきや食欲低下、吐き気などの症状がないことを確認してから通常の活動に戻ります。健康な時の体調で、いつもと同じように食事や水分補給ができるかが判断基準となります。翌日になってもだるさや食欲不振が改善しない場合は医療機関を受診しましょう。
回復後は、熱中症を起こした環境や行動を見直し、同じ状況を避けるための対策を講じることが重要です。水分・塩分補給の方法、休憩の取り方、室内環境の調整、食事内容、睡眠環境など、予防策を再度確認し実践しましょう。重篤な熱中症では後遺症が残る可能性があり、軽症でも稀に長期間の倦怠感やめまい、頭痛が継続する場合があります。後遺症を防ぐためにも、予防対策の徹底と早期対応が不可欠です。
まとめ
熱中症は命に関わる深刻な疾患ですが、正しい知識と適切な対策により十分に予防できる疾患でもあります。特に高齢者や子ども、基礎疾患をお持ちの方は注意が必要ですが、健康な方でも油断は禁物です。
予防の基本は、こまめな水分・塩分補給、暑熱順化による体づくり、環境の工夫と適切な服装、体調管理と生活習慣の改善、そして周囲への気配りです。万が一熱中症の症状が現れた場合は、迅速な環境改善、効果的な冷却、適切な水分補給、継続的な観察を行い、必要に応じて医療機関に相談することが重要です。
また、症状が改善しても自己判断は避け、回復後の注意点を守ることで再発を防ぐことができます。特に意識障害がある場合は緊急事態であることを認識し、迷わず救急車を要請してください。
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